学校検眼で近視がわかり、言われるままに眼科を受診すると、よく言われる言葉・・・
それは、「まだメガネを使うほどではないようですので、様子を見ましょう」
というもの。
でも「様子を見ましょう・・・」とは、具体的にどういうことでしょうか?
「様子を見ていれば、良くなるかもしれませんよ」ということでしょうか?
もちろん、そんなわけはありませんよね。
答えは
「まだメガネには少し早いようです。ですが、近視がさらに進行して、
また来てくれれば、メガネ処方箋を出しますよ」ということなのです。
↑ ↑ ↑
第29回眼◆◇眼科でよく聞く「ワック」って何?◆◇ より
わが子が近視になってしまった!大変、なんとかしなければ!!
・・・そんな気持ちで、子を持つ親は眼科の門をたたきます。
でも、眼科での対処は「なんとか治療や改善をしてほしい」という切望からは、程遠いもの。
ここに、割り切れないものを感じたことのある方は、結構いらっしゃるのではないでしょうか。
他の医療機関なら、からだに不具合があれば何らかの対処をしてくれるはず。
なのに、近視に対する眼科の対応は“様子見”だけなんて・・・
なぜ、いつから、そんなふうになったのか?
今回は、そういった眼科の問題について、ちょっと考えてみたいと思います。
1.「近視予防法」!?
今ではあまり知られていませんが、かつて、
日本には国をあげて“近視予防”に努めていた時期がありました。
さかのぼること約70年、1939年(昭和14年)に『近視予防法』というものが出されました。
これは、現在の厚生労働省と文部科学省から出された通達で、
「国民はこれを厳守するように指令され、
また、義務教育の中でも周知徹底することが基本方針とされた」といいますから、
まさに“国をあげて”近視予防に取り組んでいた、と言ってよいでしょう。
国が一丸となって近視予防に取り組むなんて、すばらしい試みじゃないの??
と、近視に悩む現代人なら、思うかもしれません。
実は、これには当時の国の事情が大いに関係していたのですが――
『近視予防法』とはどんな内容だったのか、まずはそれをご紹介しておきましょう。
2. 視力を良くして戦争に勝つ???
◎身体を強健にすること ――――― 偏食を避けて、戸外運動を奨励すること
◎眼の疲労を防止すること ―――― 眼に適当な休養を与えること
◎姿勢を正しく保持すること ――― 読書距離は30cm以上、寝転んで読書をしないこと
◎採光に注意すること ――――― 十分に明るい光線の下で勉強すること
◎印刷物を選択すること ―――― 文字の過小なものは避けること
◎視力検査をしばしば受けること ― 近視者は正確な眼鏡を用いること
これが、『近視予防法』の中身です。
(参考資料:「老眼と正しくつきあう」丸尾敏夫著 岩波アクティブ新書)
内容を見ていて感じるのは、どれもまっとうで、眼のためには大変良い生活習慣である、
ということです。
名前からすると、何か特別な決まりごとがあったのかな、と思われるような
『近視予防法』ですが、要は「近視にならないように、生活習慣に気をつけましょう」
ということなのですね。
当時の日本は、第2次世界大戦に向けて突き進んでいるというご時世。
男子には兵役義務があり、強い兵隊を育成するというのが、国の最重要課題だったのです。
かつての日本にとって、最大の武器は「人」であり、人海戦術が頼みの綱だったわけですが、
そんな事情のもとでは、戦闘能力を高めるため「良い視力」を持った人材の育成が
不可欠だと考えられたのですね。
「視力を良くして戦争に勝とう」ということですから、今考えればとても無茶です。
でも、当時は大まじめに、国民の視力向上を奨励していた――というのが、
『近視予防法』の背景なのです。
3. “近視予防”はなぜ消えた?
ここでちょっと考えてみたいのは、そのような、70年前には存在した“近視予防”という
考え方が、いつのまになくなってしまったのか???ということです。
上にご紹介したように『近視予防法』の内容はどれも、
視力低下防止のためには欠かせない、眼に大変良い生活習慣ばかりです。
むしろ、テレビやゲームやマンガ本などに囲まれて暮らす今の子どもたちにこそ、
必要なことであるといえるでしょう。
しかし、戦後、
“優秀な兵力育成のための視力向上”という考え方は前時代の遺物に。
↓
“視力低下防止のための生活習慣”も、一緒に廃れていった。
・・・というのが、実際のところなのかもしれません。
4.近視の爆発的増加
次のようなデータがあります。
【昭和24年】 【昭和38年】 【昭和52年】
小学生 6% → 12% → 17%
中学生 9% → 21% → 32%
高校生 12% → 34% → 48%
小学生のところを見てみると、
「昭和24年から昭和38年で2倍増、昭和52年では約3倍増」
という、非常にわかりやすい推移をたどっています。
これらの数字は・・・近視の児童・生徒比率の推移を表したものなのです。
〔文部省(現在の文科省)調べ〕
子どもの近視率データとして文科省に現存する資料の中で、
いちばん古いのが昭和24年のものです。
昭和24年から14年間で2倍、さらにその後の14年間で3倍に増加しているという、
このデータの示す結果から、戦後‘近視の子どもが爆発的に増加’したことが
よくわかると思います。
5. 医療が進むと逆に・・・
昭和30〜40年代といえば、日本が高度経済成長の真っ只中にあった時代。
戦前には想像もしなかった、便利で豊かな生活が普及し始めました。
とりわけ、電化製品の登場は、人々の生活に劇的な変化をもたらしたのです。
明るい電灯があるおかげで、夜遅くまで活動できるようになり、
「テレビを見る」という、今までになかった生活習慣も生まれました。
そんな事情を考えれば、子どもの近視が増加の一途をたどるのも、
ある意味当然だといえます。
そして、それと並行するようにめざましい進歩をとげたのが、医療の分野です。
乳幼児の死亡率が激減したり、日本人の平均寿命が飛躍的に伸びたり・・・
ということはもとより、眼科の分野でも、それまでになく医療技術が向上していきました。
昭和30年代頃までは、メガネは高価なものであり、ガラス製のレンズは割れやすく、
メガネといえば“不便なうえにお金がかかる”ものというイメージでした。
が、医療技術と製造技術の発展により、メガネは手頃な値段で入手可能になりました。
さらに、コンタクトレンズも登場し、こちらも次第に低価格が実現していったわけです。
大手メガネチェーンが日本全国に展開を始めたのが、1960〜70年代。
アメリカのボシュロム社によって、ソフトコンタクトレンズが発売されたのが71年。
これらもすべて、昭和では30〜40年代にあたります。
6. 「眼科のメガネ・コンタクトレンズ店化」
つまり・・・これらの進歩発展は、戦後日本の功績であるとともに、
“近視になってしまっても、まあ何とかなるだろう”
という楽観材料を作ってしまった、ともいえるのですね。
「すぐれた矯正手段があること、また、
多くの人が抵抗なくそれらを使うようになったこと」
こういった要因から、眼科もまた“近視の予防”に力を入れなくなり、
近視になったら様子を見る → 悪化したらメガネの処方箋
という対処が一般的になっていったのだと考えられます。
ちなみに・・・アメリカでは、
眼の疾患を扱う → 眼科”
メガネやコンタクトレンズを処方する → 「オプトメトリスト」
というふうに、完全に役割が分かれています。
つまり“近視”という分野は、眼科医の担当領域ではないということです。
日本では、すべてが一緒。つまり、ある意味で
「眼科のメガネ・コンタクトレンズ店化」が起こっているともいえるわけです。
以上のことから考えると、
【近視の爆発的増加】と【メガネ・コンタクトレンズなど矯正手段の手軽化】
が相まって、“近視を予防しない”眼科の現状ができあがった、といえるでしょう。
7.まとめ
眼科で行われている近視への対処は、
“ミドリンやワックで様子を見る”
↓
“更に近視が進んだらメガネをかけるように、という指導”
ほとんどの場合、これだけ。なぜそんなふうになったのか?
戦後、
●子どもの近視の爆発的増加
●メガネ・コンタクトレンズなど近視矯正手段の手軽化
↓
医療技術が発達したことにより【近視のデメリット】が少なくなった
↓
眼科にとっても“予防”に力を入れる理由が希薄になった
つまり・・・
【“近視”を相談するのに、眼科は適していない】
だったら、どうすれば・・・?
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8.編集後記
寒さひとしおの、お正月。でも、子どもは元気です。
お正月の子どもの遊びといえば、凧揚げ・すごろく・こま回し・・・
などと言っていると「いつの時代の話??」と言われてしまいそうですが・・・
私が子どもだった30年ほど前には、お正月の空に凧がちらほらと揚がっていたものです。
ちょうどビニール製の凧が売り出され 、
(「ゲイラカイト」という名前でした。ネットで検索してみたら、今もあるようです。懐かしい!)、
とてもよく揚がるので、楽しくて夢中になって遊んだ覚えがあります。
元日は人出も少なく、車もいつもより走っていないせいか、
空が澄んで、高く揚がった凧が遠くまで見えたような気がします。
今考えれば、あれはとても眼に良い遊びだったと思います。
遠く広がる空と、高く高く揚がる凧。
糸を引きながら、遠い空の凧を眺めて楽しむ時間――
というわけで、凧揚げはこの時期おすすめの遊びです。
寒いけれど、子どもには新鮮な楽しさ、お父さん・お母さんには懐かしさが味わえますよ。
凧揚げなんてしたことないよ、というお父さん・お母さんは、
お子さんと一緒に新鮮な気持ちで楽しんでみてください。
眼育総研事務局